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長崎とわが家

私は郷土愛とか愛国心とか、そういうものにほぼ不感症で、というか、身内よりもお客さまを優先するというおもてなし精神を家族から受け継いだので(うちの一家は、皆、身内をあとまわしにして、赤の他人にサービスして、家族に恨まれ、他者に愛されるという傾向を申し合わせたわけでもないのに、皆が守って生きていた。お嫁さんやお婿さんのことを、「よくもまあ、あんな子と結婚して大事にしてくれて」とひたすら感謝し、「あんな子」の悪口ばっかり、けっこう心から言ってたから、お嫁さんやお婿さんはうれしかった一方で、愛する夫や妻のことをもっとほめてほしいと思っていたかもしれない)、オリンピックや高校野球やその他すべてで、いつも敵方相手方を一家で応援していた。母ははっきり、「どうして、よそから来た人を歓迎して応援しないの。身内はメダルを遠慮して、よそに取らせるものじゃないの」とふしぎがっていたものである。

もともと一家は長崎の出身で、一時は中国(中国地方ではない。マジの中国。祖父はそこで大きな病院を経営していた)にも住んでいたが、祖父が内乱にまきこまれて、着の身着のまま一家で帰国後、行き当たりばったりの気まぐれで、大分の国東半島の付近で医院を開いて、そこに暮らすようになってしまった。大分というのはパワフルで荒っぽいところもあるが、住みよいいいところだった。ただ、母たちは長崎の優雅な文化との差にショックを受けたようで、「長崎の運動会で、父兄に競技に出て下さいと何度放送してもお母さんたちは恥ずかしがって誰も出ない。それがここでは、賞品めあてに奥さんたちが我がちに争って参加し、腰巻きをあらわに、どさどさ砂をけたてて走る」「女中さんを雇ったら、長崎では必ずふすまは座って開き、『奥さま』と静かに声をかけるのに、ここでは女中さんが仁王立ちのままふすまを開けて『奥さん、こりゃ、どげすんのかえ~』と大声で言うから腰が抜けた」などと話していた。高い塀に囲まれた木々の茂った庭は、村の中でも言ってみれば異文化の世界で、ただそこで、私も家族も、地域の人と仲良くして大切にしてもらっていたから快適で幸福で、むしろ家族の中ではどなりあったりけんかしたり、冷たい人間関係だった。まあ、それはそれでよかった(笑)。

そうなると地元がどこだか郷土愛が何だかわからなくもなるわけで、たとえば駅伝競走のとき、地域の皆が沿道に出て旗を振って「大分、がんばれ~」と叫ぶ中、母と私は、「長崎、がんばれ~」と声を枯らして応援していた。一度など、後尾の方を走っていた、人の良さそうな気の弱そうな長崎の選手が、思いがけない声援に、びっくりして振り返っていたのを、子どもだった私はよく覚えている。

そういう、ちぐはぐなところも含めて、住んでる地域に染まって応援するという習慣が私にはなく、だから、ここ福岡でソフトバンクホークスの応援がすごすぎて、ついつい全選手の名前や顔や動向を覚えてしまったのが何だかうしろめたくて恥ずかしいし、一時期住んだ名古屋のテレビで毎晩見ていた、ドラゴンズの応援コーナーは今でも思い出すとなつかしくて、試合結果が気になったりしている。

いつものことながら、めちゃくちゃ前置きが長くなったが、要するに昨日の朝、うっかりずっと仕事そっちのけで見てしまった、長崎の原爆忌の平和祭典での長崎市長の挨拶が、声もことばもたたずまいも、実に毅然と力強く、立派で心を動かされたこと、また被爆者代表の九十歳近い男性が、これまた、衰えのない若々しい声と滑舌で、ひかえめにだが明確に原爆の悲惨と平和への希求を述べたこと、それらを見ていると、直接に私は体験していないが、母たちの心の源だった長崎という土地への誇りと感謝と愛情が、ふつふつとこみあげて来たことに、自分で目まいがしそうになった。そこには、被爆して亡くなった顔も知らない一族の親戚たちの血が自分の中に流れているような気もして、何から何まで、身内だの郷土だの家族だのということに徹底的に無関心でいた自分には、あるまじきカルチャーショックもあった。

何よりも、その土地が、イスラエルを招待せず、G7諸国にボイコットされ、それでもひるまず世界に向かって、平和を話し合いを核の禁止を訴えていることに、喜びと、くりかえすが誇りを感じた。そこにルーツを持つ自分を幸せと感じた。

今、老化と体調不良で、私は平和を守る行動に具体的には参加できない。少し前からもう「私にしか出来ない」活動に限定して、世界と日本に貢献することにしている。それでいいのかどうかわからないから、日夜ゆれてるし、迷っている。それでも、昨日は、あらためて、力づけられ、できることをともかくしようという自信と決意を持てた。長崎市の決断と姿勢に深く感謝する。

(12)鬼とおたふく

写真は、のんびり眠る飼い猫。この平和な暮らしがずっと続きますように。

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カツジ猫