隣の席
テレビのデッキに入れっぱなしの「633爆撃隊」のDVDを、つい何度も見返しているのだが、有名なラストの爆撃シーン、今と比べたら物量も撮影も比べ物にならないぐらい素朴なはずなのに、それでも相当面白く見てしまうのは、十機近くの戦闘機が、敵の対空砲火と上空からの敵機の射撃をかいくぐり、曲芸飛行なみの見事さで巨大な岩の下部に爆弾を落とす、というミッションの中で、機内の操縦士と航空士(助手席みたいなのに座って補助してる人)のコンビの動きが、いちいち一人ひとり工夫されて特色を出している、っていう点が大きいよねえ。
操縦士たちは、だいたい皆わりと似た、かわいい顔をした優男だから区別がつきにくい。一度見ただけじゃ無理だろう。主役のクリフ・ロバートソンが男らしくごつくて頼もしい感じなのを際立たせるためかもしれない。(以下ネタばれ)
中でもかわいい、絵描きの新婚さんは、出撃前に負傷して参加しない。それも視力を失うという、さりげないけどひどい運命を与えられている。映画館では目が見えなくなるというだけの字幕だったけどDVDでは「顔も視力も」失う、と新婚の奥さん(彼女も軍人)が悲しそうに言っていて、いちだんとかわいそうだった。けど、出撃に参加しなかったのは幸運と言えるのだろうか、どうなんだろう。
あとは、片手がフック船長みたいなカギ型の義手になってる、陽気で元気な人が、まあ手を見ればわかるからわかりやすい。スコットって言うんだよね。最後まで生き残りそうでそうはいかないんだけど。
インドか中東系かの背の高い人がいて、この人は目立つから覚えやすい。それから、ずっと指導部クラスの上役だったのに、志願して最後にわざわざ参加して来る人がいて、この人も少し貫禄があるから区別がつく。
とは言え、そもそも爆撃中は皆服装や装備や帽子が全部同じだから、ますますわかりにくいんだけどね。それでも何となく区別できるし、何回か見るとほぼ全員が見分けられる。
で、操縦士それぞれもなんだけど、横に座ってる航空士たちが、皆それぞれに、とてもいい味を出していて、つい、ああ自分がパイロットなら、こういう相棒なら、とか逆に自分が隣でパイロットを信じて一蓮托生で座ってるしかない航空士だったら、とか、ついいろいろと考えちゃう。
航空士の中には茫然自失して、爆弾投下のボタンを押すお仕事もできない状態の人もいる。尾翼の方が燃えてるのを消火するとか、けっこう仕事多いんだよね。銃弾があたってもう死んでる人とかもいる。例の上司で参加した人の航空士はさすがにというか落ち着いていて、冷静ですごく頼りになりそうで、いいコンビと思わせる。インド系の人の航空士もしっかりしてそうだが、何より爆弾投下直前に撃たれてパイロットが死んでしまったとき、この航空士は、横からハンドルつかんで操作して、機もろともに岩に突っ込み、無駄な墜落をしない。この時に初めて土や石がばらばらと落ちて、目的の大岩石破壊の気配がちょっとだけする。
それぞれのコンビが登場するのは、いずれもほんの数秒。それなのに、彼らの人柄や人生やふだんの様子や仕事ぶりが、あざやかに見えてくるようだ。この描写、この人間ドラマがきっちり描き分けられているから、今と比べて単純かもしれない映像でも、まったく退屈しない。ある意味、型通りの描き分けかもしれないが、それもまたいい。
この人たち、特に航空士たちは、ここまでほとんど詳しい紹介などはされてない。それでも、短い場面の中にその運命と人生が浮かび上がって、たくさんの想像を生む。何ならついでに職場や地域、家庭やスポーツなどなどで、相棒や部下との関係で、こういうやつがいるよなあとか、自分はきっとこうだなあとか、ついつい連想までしてしまいそうになる。ぶっちゃけ、あいつが隣に座っていたら、安心して飛べんわとか、誰かの顔を思い浮かべて考えてしまうかもしれない。
写真は去年買った私の、ちょっと飛行帽っぽい帽子。冬になったらかぶるんだい(笑)。