映画「雨あがる」感想集映画「雨あがる」感想-3

うう、寒すぎる。凍えながら書いてます。
DVDを借りて、英語字幕版やら対談まで、いろいろ見倒し、原作の小説も読みました。

今さらですが、ネタばれよん。
これって、山本周五郎の原作では、殿さまサイドの話って、みごとに何にもないんですね。そもそも殿さまなんて登場しないし、御家老とかだけが、伊兵衛さんと交渉し、採用中止を言い渡してる。
つまり、あのせっかち殿さまは、黒澤監督の補充というか、とってつけた部分なんですね、完全に。でも、それ、よいわー。とってもよいわ。

黒澤監督の映画って、「赤ひげ」にしても、まあ「七人の侍」にしても、「椿三十郎」にしても、伊兵衛のような、なみはずれた強者が崇拝され、信頼され、それでどうやって生きるかっていう設定が、明らかに、とても多い。「デルスー・ウザーラ」あたりから、そういう絶対の能力を持った偉人の描き方、あり方が時代にぴたっと、そぐわなくなってきて、「影武者」などは、あ、「乱」も、そういうかつてのカリスマが存在しない、あるいは衰微した時代の恐怖と悲しみを描こうとしたとしか、私には見えない。

「雨あがる」の原作は、どってことない、愛すべき短編で、周五郎の作品としては、そんなに力作でも名作でもないと思う。でも、黒澤監督は、この短編の主役の三沢伊兵衛の中に、おののくほどに自分の心の琴線にふれて呼応するものを見つけたんだと私には思える。

原作を読んで映画を見ると、あらためて思うんだけど、寺尾聰のあの腰の低い演技、あれ、明らかにわざと見る者をイラダタセルようにやってるんだよね。だから、彼にイラついてかんしゃく起こしてた私の反応は、完璧に正しかったわけよ。まー、わかってたけどさ(笑)。あらためて確認しました。あの、癇にさわる好い人らしさは、確信犯です。

でもね、そうは言っても、そこはやはり映画だし、寺尾聰はやっぱカッコもいいわけですから、それもきちんと計算してやってるとはいえ、とにかくですね、映画の伊兵衛は原作の伊兵衛より、確実にちょっとだけカッコいいし、ちゃんとしてて、まともなんです。
これはねー、私、小泉監督か寺尾聰か、どっちかか、どっちもかが、もう天才的に決定的に、うまいというか、黒澤監督の意図を完璧に理解して、ひょっとしたら、その上を行ったかと思うぐらいなんですが、この原作と映画の伊兵衛の差ね、これ、下手すると、ものすごく、つぎはぎの、中途半端の、生煮えの、ほんとに絶望的にどうしようもない、わけわからん人間像になったと思うのよ。それが、そうじゃないもんなー。ちゃんと、成立してるもんなー。ああいう、情けない、しょーもない、でもいい人で、剣の腕以外は、健全な普通の優しい人、みたいな。

あ、でも、ひょっとしたら、不自然でわけわからない人間像になってるのかもしれない、でも、そうだとしても、それは見ていてわからない。普通の、そのへんの人間が誰もよくわからないと同じ程度に、わからないところもあって、しかたがないって感じで見てられる。そこは、やっぱり、すごいと思う。

長すぎるかな。いったん切ります。

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カツジ猫