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「水の王子」通信(106)

タカヒコネのイラストはそこそこ描いたのに、決定稿をまだアップしてなかったみたい。それともどこかにつけましたっけ? (あ、スサノオのところに入れてたか。)

まあこの「通信」の「70」でも、彼については詳しく書いてるんですけど、改めてもう少し。何しろ幻の続編「回復期」の主役になりそうな勢いだから(笑)。(けっこう熟慮の結果、タイトルは変更しました。シリーズ意識を保って「山が」にします。)

「青い地平線」のサフィアンとも共通するのですが、私は小説で、めちゃくちゃ悪事を働いて、普通の小説だったらまず悪役にしかならない人を、けっこう必ず主要人物の一人にしてしまいがちです。親鸞の「善人なおもて往生す。いわんや悪人をや」じゃないけれど、そういう人を入れとかなくてはどうも落ち着かない。

ただ、これすごく微妙なんですが、そういう人を幸せにしたりカッコよく書いたりしたことで、悪人、ならまだしも中途半端な悪人が力づけられて、「あ、偽証や汚職ぐらいしてもいいんだ」みたいな気分にちらとでもなるのは、ものすごく不愉快。「悪人にも悪人の事情がある。世界がある。家族愛がある。人生観がある」みたいな免罪感を与えるような作品は、絶対に書きたくない。だから、あらゆるヤクザ映画は大きらい。「ゴッドファーザー」シリーズも大きらい。見てないけど多分「鎌倉殿の13人」の義時の扱い方もきらい(そもそもそういう気配を感じるから、三谷幸喜がきらい)。

多分、職場でもどこでも、「まっとうなことを貫き、正義や法律を守ろうとした人たち」の報われなさや苦闘や犠牲の数々を、あまりにまざまざ見てきたからだと思う。偉大な研究者や学者や人格者でも、そこまでやらなくてもと思うぐらい、泥まみれに汚れて、あほや臆病者やエゴイストを相手に正論を述べ、策略もめぐらし、なりふりかまわず戦う姿を、何度も間近に目にして来た。そこにこそ、隠されたドラマがあり、埋もれた悲劇があった。その中で、そうやって戦った偉大な人たちは勝っても負けても淡々と自分の仕事をし続けておられた。

そんな方々の戦いを見てきた者としては、悪をなした者たちが妙に自分らが英雄で悲劇の主人公みたいな顔をして「誰にもわかってもらわなくてもいい」みたいな自己満足と自己憐憫の深刻な顔つきをしているのが、吐き気がするほどみっともなくて、ちゃんちゃらおかしく、寒気がするほどいやである。絶対に、かけらも彼らにそういう安らぎを与えたくない。そういうバカの姿を見て、力づけられるような、けちな悪人はますます許せない。赤木さんを死なせた佐川とか、それに類した人種に、どんな意味でも、どんな物語の主人公とでも同化して自分に酔う安らぎを、まちがいだらけの自己陶酔を、死ぬまで一瞬も私は与えたくない。

そうは言っても私自身にも唾棄すべきことをした経験は、気づいているだけでもいくつもある。もう一度同じことに遭遇したら同じことをすると確信していることも、その中にはある。そういうことを、あれこれ考えるためにも、そういう登場人物が私には必要なのかもしれない。とにかく私は、彼らのような悪人を自分を安住させるために書くのじゃないし、チンケな悪人に存在証明を与えるために書くんじゃない。むしろ、自分のしたことを思い出して苦しめるために、これからどうするか考えるために、このままではいたたまれないようにするために書くのです。

さてとにかく、続編もどき「山が」の主人公は多分このタカヒコネくん。
この一年、本当に「村に」に振り回されたけど、その一つの大きな理由は、四月に一気に書きあげた手書き原稿を、パソコンに入れてデータ化したとき、わりと急いだせいで、校正にすごく手間をとられて、ほとんど半狂乱になったことだ。それでクサって、作業も大遅れした。

その反省をこめて、この「山が」は、何とまだ未完なのだけど、できた分からちびちびとデータ化して、このブログで公開して行こうと思う。いつか、いずれ、電子書籍にでもするときは、未完成な部分を補充する。

ちなみに私は40年前に書きはじめたときから、「水の王子」だけは、最初から順に書いて行った。「村に」もそうだった。

でもこれは私には珍しいというか、唯一のやり方で、それまでのどんな作品も(「風と共に去りぬ」のミッチェルもそうだったらしいが)書けるところから順不同で書いて行っていた。私の場合、ラストシーンを最初に書いて、クライマックスシーンを次に書いて、最初の場面をその次に書いて、それから間を埋めて行く、というのが多かった。

「山が」のラストシーンはまだ書いてない。というか、これはラストシーンなんてどうでもいいようなお話だ(笑)。でも、「水の王子」シリーズでは初めて、順不同で書いた。そういう点では、このシリーズのひとつの転回点とも言えなくはない。

何しろ多分、もうすぐに、「山が」の連載をはじめる。そしてこれはもう「村に」の続編というか裏話というか、ネタバレ満載、説明もほとんどなし、だから、よろしかったら始まる前に読む前に、「村に」をざざっと読んでおいていただけると助かります。まあ読んでなくても楽しめるかもしれませんが、そこはもう作者は責任持ちません(笑)。

なお、挿絵は新作も描くけど、以前のものも使ったりします。タカヒコネは、油断するとすぐかわいらしくなりすぎるので、気をつけないといけません。文章の方も甘くなりすぎないよう注意しないといけないので、せいぜい用心しておきます。

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カツジ猫