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幸せで、不安

映画「グラディエーター」の感想もどきの小説もどき(笑)「砂と手」シリーズの第一冊が完成間近だ。表紙も、なかなかいい感じにまとまって来ている。全八冊の原稿もすべて仕上げて、出版を手掛けて下さっているデュナミスライフさんに送ってある。信頼できる仕事をして下さるから、そこの心配は何もない。

なのに何だか不安でならない。
 もう何十年も前だが、「近世紀行集成」全十冊か何かを出版しようとして、最初の二冊は刊行して好評だった。自分でも満足して全力投球していた。でも、出版社の方でいろいろ問題が起こって結局そのまま中断した。別の出版社から刊行する予定で、かなり仕事も進めたのだが、私の方もいろいろあって、結局いまだに中断したままだ。刊行をあきらめてはいないけれど、自分の体調や年齢を思うと、完成がさすがに心もとない。
 研究者としての私のいわば最盛期の仕事がそういう状態になった上に、田舎の家に保管していたそれ以外の資料の多くを、善意の方の好意からごみに出されて処分されてしまうというハプニングもあって、研究者としても教育者としても、私はいわば息の根をとめられた

もちろん、同僚や先輩の研究者の中には、災害や事故で、それ以上の被害を受けて、研究を頓挫し挫折させられながら、なお立派な仕事をされて人生を終えられた方も少なくない。だから、私の体験などは、ものの数にも入るまい。

それでも、余技としてでもそれなりに打ち込んで来た作品が、こうして日の目を見るかたちになりそうな時、何だかトラウマがよみがえる。ほんとに「砂と手」全八冊が無事に出版できるのだろうか。また二冊目か三冊目で中断することになりはしまいか。

「水の王子」シリーズ全七冊の完成は、そもそも予想もしていなかっただけに、走って走って走り抜いていたら、いつかゴールしていたという、意外さと驚きしかなかった。それは今考えると実に幸せなことだったのかもしれない。

なので、もう、ともすれば、一気に全部刊行してしまいたいという思いが強くなる。他の仕事も体調も、すべて無理ができる状態ではないのに、一刻も早く全巻を公開してしまいたくてしかたがない。犬ぞりか馬車で、数匹の馬や犬がたけりまくって走り出そうとするのを、必死で引き止めている感じ。疲れる。
 まあ、幸せな苦しみなんだろうけれど(笑)。

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カツジ猫