1. TOP
  2. 岬のたき火
  3. 断捨離狂騒曲
  4. 断捨離新世紀(10)ぽたぽた

断捨離新世紀(10)ぽたぽた

ぽたぽた

先見の明

もう多分十何年も前からじゃないかと思うが、風呂上がりに踏むバスマットの小さいのをずっと探している。バスマットの性能もデザインも、この間めまぐるしいほどの速さで改良されてきたと思うのに、四角でも丸でも三角でも何でもいいが、小さい小さいバスマットは、なぜかちっとも出て来ない。需要がないことないと思うんだけどなあ。脱衣場ってそんなに広い家はないはずだし、洗濯機や脱衣籠や、そこそこ置いてあるものも多い中、きっと、ぴしゃっと、狭い空間に置かれて存在感を発揮する小ぶりなバスマットって絶対カッコいいと思うんだけど。とにかく、見つからないのだ。変にばかでかいバスマットばかり見ていると、だんだん腹が立ってくる。

私のこういう欲求って、案外時代を先取りしてると思うのよね。同じくらい長い間、探し求めてさまよってたのが、いわゆる居間の応接セットみたいなののテーブルが、書き物ができるぐらいの、もうちょっと高いのがないかってことだった。実はそのころ行きつけの喫茶店のひとつのテーブルが、どんぴしゃりのその高さで、お茶や食事もできるけど(それが本来の役割だから)、書斎のように書き物や読書が普通にできた。背を丸めないでも、かがみこまなくても。本当に、盗むか譲ってもらうかしたいぐらいの理想的な高さで、そしてどういう家具屋に行っても、高級品でも安物でも、絶対にその高さのテーブルがなかった。

一時期からは私もあちこちのお店で、「仕事机としても使える高さの、応接セットのテーブルがないか」と聞いて回るようになったが、やはりなかった。ならば、食卓テーブルの長い脚を短く切ってもらおうかと考えたが、これもそういうテーブルというのは、下の方に芯のようなのが入っていて、おいそれとは切れないものらしかった。結局、さすがにしつこくてあきらめの悪い私も力つきて、応接セットと仕事机の合体共有は夢と終わったのだった。

それから更に何年かして、ワンルームの小さい家に住むようになって、応接セットを入れる余裕はない生活になったころ、何といろんな家具のお店やコーナーで、「仕事もできる応接セット」みたいな触れ込みで、まさに私が切望して、騎士物語の騎士たちが聖杯を求めるように、チルチルミチルが青い鳥をさがして回ったように、求めつづけていた、その高さの、その仕様の応接セットが続々出回りはじめたのだ!

そら見ろ私は正しかったのだという満足感と、どうして専門の家具販売業やインテリアデザイナーが、そういう生活の変化や需要に気づかないのだという怒りと、どっちが大きかったかはわからない。どっちにしても、もう私には、それを買う余裕は金銭的にも空間的にもなかった。いろいろと、くやしい。

価格やスケールの点ではずっと小規模だが、「小さいバスマット」もそれと似ていて、その内私が自分で入浴もできずにデイケアか何かで人さまにかつがれて風呂に入って身体をふいてもらうしかなくなったころ、素敵な小さなバスマットが続々市場に出回り始めるんだろうと、やけ半分に予想している。

ポトスとポインセチア

せいぜい小さめのバスマットも、この十数年の間にいくつかは買った。というか、色違いの二つしかないのではないか。買った店も覚えていないが、何しろ安くて粗末な品で、それがかえってお洒落っぽかった。使いまくって、さすがに色あせさすがに古び、普通の人ならとっくに捨てているだろう、みすぼらしさになっているが、稀少価値の意識がまだ残っていて、何だか処分できない。

青っぽいのと赤みがかったのと二つの、赤っぽい方のを今私は廊下のポトスの鉢の下においている。このポトスがまた、適当に買ったのが育ちまくり、去年の夏、長期間家を明けたときに、水やりをお願いした方に頼むのを忘れて庭の片すみに放置していたため、ほぼ完全に枯れてしまった。あきらめながら、根元から切ってそのまま水をやっていたら、ちょろちょろ復活して、今はまた見事に前と同じぐらいに青々と栄えた。

えらいもんだと感心しながら廊下の物干し竿にかけて、毎朝水をやるのを日課にしている。けっこう上等のガラスの美しい器で、そばのポインセチアの鉢といっしょにたっぷり水を注いでやる。

…と言いたいが、実はちょっと多めにやると、鉢の下からぽたぽたと水がもれる。大した量ではないから、さっさとふきんでふいて掃除をさぼりがちなかわりにするのもよし、もれない程度の水量を加減して記憶するのに挑戦するのもよし、と勝手に面白がっていたが、ふと、古ぼけて部屋のすみに押し込んでいた例のバスマットを、ぽいと投げるように置いてみたら、何だかその粗末さが、室内なのにベランダか戸外のような感じも生んで、なかなかに雰囲気がいい。

ぽたりぽたりと落ちる水はほんの数滴なので、廊下まで濡れたりカビが生えたりする心配もない。毎朝、水漏れしない量を把握するのに挑戦しながら、ひょいとしたたり落ちたときはそれも楽しく鼻歌を歌って、お仕事をしているバスマットをながめている。
それにしても、気分転換に、そろそろもう一枚の青い方も、どっかから探し出して交代させながら働かせてみようかな。二つを十字形に重ねて使っても面白いかもしれないな。

Twitter Facebook
カツジ猫