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母と、母の母(6)

この祖母の手紙は(3)で紹介した、金山の儲け話が詐欺だとわかったときのものだ。損はしないですんだようだが、(3)と合わせて読んでいただくと面白いだろう。「宇佐屋」というのは今もJRの宇佐駅前にある古くからの旅館で、ご主人にはいろんなことで相談相手になっていただいていたようだ。

母と叔母(南生子)のいた活水の寄宿舎での事件とは何かわからないが、祖母の落着いた冷静さぶりが、ちょっと大物っぽい。自分もかつては寄宿生だったから様子がよくわかるのだろうか。何やら「ダウントン・アビー」のおばあさまの風格がある。

叔父(板坂元)の図画の宿題を母が寄宿舎で代筆?してやっていた話は母にも聞いていたが、祖母のこういう手紙を見ると、叔父の不正行為は一家をあげて認めていたってことになるのかと、あきれながらおかしい。モノクロのぼやけた写真を送って来て、この建物を描いてくれと言うんだから、と母が話していたが、伯父(母や元の兄)のカメラのお古を使っていたのかな。

この絵はそうやって母が描いたのらしいのの一枚。叔父の署名があるけれど、明らかに母の作品っぽい。

夏みかんの木は私の幼い時もまだ庭にあった。三本ほど並んでいて、白い花が咲いていた記憶も何となくある。いつからかなくなってしまったが、夏みかんは私も食べていた。

先日は御手紙有がたう 返事が大変遅くなってすみませんでした 別に何ってこともなかったけども例の金山の件であまり話がよ過ぎたので気味が悪るく遂宇佐屋の小父さんに行って貰らったら果せるかな まるでインチキだったので又平田先生を呼び色々相談して別に内では一銭も損しないで済みましたがその馬鹿らしさがうらめしいのよ 矢張り世の中にはぬれ手に粟てことはそふたやすくあるものでないね まあ神から與へられた自分の本職大事に進むべきですね
尾平さん方も揃って元気でお帰ったさうで何よりでしたね おみやげまで頂いてすまなかったね
時に寄宿舎の犯人ちがってたって学校としては初めの人にウンとお詫びすべきですね そして活水としては大問題か知らぬか世間へ出せば大した事でもないのだから先生方もあまり大さわぎ成さらぬ方がよかないか知らん おとなの先生方が大さわぎなさるのを面白がって益々やるのでしょ あまりむきになってかもはない方がいゝことないか知らんネ
それから元ちやんの画たしかにゆつくりと間に遇ひました 有がたう この頃は兄さんの寫眞機が不要になって置きぱなしに成ってますから寫眞を初めてますよ 十七日の日曜には一本か二本取ったやうです
この間から縣立の旧友方と共に楽しく過したってね 池田先生も居らしてましたって皆どんなに嬉しかったでしょ 学友はどんなに年を取ってもなつかしい親しみのあるものです 親族は時々はうるさいことがありますが友はそんな事がなく心からうれしいです
今日十圓送ります 随分待たせたでしょね 南生子もかわりなくて居ましょね あの人夏みかんが好きだからそろそろ送って上げやうとおもってますのよ ひどい風が引きつゞき吹きますので よう落ちます 御父さんは皆が帰るまでならせてをくと仰言ってますよ そうしたら少しもすっぱくないそうです 最う明年分の花が一ぱい咲いてますよ
時候の替り目だからよく注意して 
                         母より
  澪子様
    十八日

(五月十八日)

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カツジ猫