映画感想あれこれ映画「ヘラクレス」感想

◇「ヘラクレス」の映画を見てきました。どーせ大味なアホな映画だろうと、たかをくくっていて、思えば10年前に「グラディエーター」のヒットで息を吹き返した、この手の歴史大作も、もうそろそろ息切れしはじめたかなと思い、その最後の落日の残光を見届けてくるのもよかろうと、ものすごーく自分勝手な感傷にひたって見に行ったのですが、わわわわわ、いろんな意味でまちがってました(笑)。

そりゃ単純でアホな映画にはちがいないです。でも、どういうか、この映画にはマンネリとか行き詰まりとかいうこととはまるで無縁の元気いっぱいさがあふれています。どうしてかなあ。どこがそうなのか、よくわかりませんが。俳優も脚本も何もかもが悪びれてないし照れてないし、大真面目で前向きに健康にサービス満点で張りきってます。うん、こういう映画はこうでなくては。

いやー、私、10月は田舎の家からの大型家具の移動、11月はこちらの家の書棚の増設リフォーム工事と、体力知力気力演技力(疲れてないふり怒ってないふりあきれてないふりショック受けてないふり感動してないふり泣きたくなってないふり平気なふりやけになってないふり、その他もろもろ)の限りを要求されて、ぎりぎりの狂気と歓喜のはざまを行き来していまして、映画を見に行くどころじゃなかったんですが、この映画がけっこういつまでも映画館にひっかかっているんで、こんな大味そうでバカバカしそうな映画、あっという間に消えると思ってたのにおかしいなあと心のどっかで不思議がってたんですよね。実際に見て、ようやくそのわけがわかったわ。いい映画なんですよこれ。単純だけど、ちゃんと人を元気にしてくれる。

◇新聞の批評が「七人の侍」に似てると書いてて、たしかにそういう部分もあるし、主人公が野心がないとか家族思いとか悪役にことばでいびられるとかヒロインが幼い息子のために苦労する(他人も苦労させる)とか「グラディエーター」の人物像や世界観をかなり使ってるところもあるんですが、どういうかな、そういう利用のしかたのバランスもいいのよね。全体の流れや人の配置やが、妙に骨太にバランスがいい。神経質に繊細なグルメ料理じゃないけど、まっとうな荒削りなごちそうをたっぷり食べさせてもらった感じ。

主役をはじめ俳優たちが、それぞれいい仕事をしてるしね。型にはまってるっちゃあそうだけど、誰もが自然で無理がない。主役の彼も、「グラディエーター」のラッセル・クロウのような複雑な深さではないけれど、暖かくて豊かな人間像をちゃんと充分に体現してくれている。
ヘラクレスって、私は子どものころ児童文学のギリシャ神話で読んだけど、今思うと立派な本で、子供向けだからって甘い改ざんとかしてなかったのよね。だからヘラクレスが狂って家族を殺したり悲惨な死に方をしたりするのも全部そのまんま書いてあって、だから他の英雄のペルセウスやテーセウスとかに比べてヘラクレスのイメージって強くて暖かいんだけど、何だか悲しくて暗い面があるんだよね、私の中じゃ。実際そうなんだろうけど。
ディズニーのアニメの「ヘラクレス」は、そのへんをどう描いていたんだろ。ちょっと見てみたくなっちゃった。

◇ヘラクレスの伝説と現実の関係もとてもいい描き方をしてるよね。どういうか、やたらと強い傭兵が、神の子として売り出されて行く状況が、とても自然にのみこめて、ああ神話や英雄伝説ってたしかにこうして生み出されるのかもなあって幻想にふと酔えたりもするんだよね。
そして、それだけ大がかりな型通りの話をくりひろげておいて、中盤でいきなりどーん!と落っことすもんなあ。そういうお定まりの、お決まりの展開から観客を。いやー、さぞ作ってて楽しかったろう、監督はじめスタッフは。
しかもそれは、きわめて現代的でリアルな課題であるとともに、歴史上の神話や英雄伝説へのアンチテーゼや懐疑ともなっている。「正義なんて反対側から見たら逆転する」っていうね。すごいよ。楽しい。

だいたい最初に、堂々たるエンターテインメント風の描写でありながら、ヘラクレスの有名な冒険をばさっと開始数秒、はあんまりか数分で片づけちゃったあたりで、思わず「おお」とのけぞって、あなどれんなこの映画と、ちょっとは予感したんですけどね。その期待は最後まで裏切られませんでした。
そして悪役の一人の王様の小物ならではのしょうもない情けない、それ故に罪が重くて最高に悪質な行動や発言や雰囲気のすべてが、あまりにもものすごく、今の日本の指導者を思い出させて、選挙の新聞報道に抗議するぐらいの人と政党だから、「わが党への攻撃である」と、この映画を見ていて思わないんかなと、まったくしょうもない心配をしました。
かねがね私は君が代日の丸問題でもそうですが、古来から文学で悪役が何をするかということを読んでいれば大阪市長の言うことすること考えることのすべてが、典型的な悪役のやり口じゃないかと思い、それを誰もがとっとと気づかないところに、現代だかこの国だかの文学の浸透してなさを痛感して、その点がむしろ一番がっくし来てたのですけどねえ。映画演劇もふくめて文学って恐いよ。典型的な悪役を描いたら、絶対にある種の支配者や指導者とそっくりになって来るんだから。まるで数学の数式か、科学の実験みたように。
うん、そういう意味でも「ヘラクレス」は、まっとうな大作でした。それをどこか陽気なB級映画のノリで作っているつつましさも逆にとても品格がありました。

◇それとさあ…(笑)、予告編やチラシで見たら、この手の映画が斜陽どころか下火どころか行き詰まりどころか、それこそ「グラディエーター」のリドリー・スコット監督が、ものすごい金と手間をかけて「エクソダス」とかいう歴史大作を制作中なのな。もう出来たのかもしれんけど。
これって「十戒」の映画と同じ題材よね。モーゼの役がクリスチャン・ベールですとさ。ううむ、まだまだ、この手の映画は元気なんだなあと、それもいい意味で裏切られて何だか楽しかったです。
やっぱり映画館はいいな。またちょいちょい見に行かないと。

Twitter Facebook
カツジ猫