映画「アナと雪の女王」感想集映画「アナと雪の女王」感想(おまけの10)

◇私はラッセル・クロウのファンで、映画「ノア」が6月に公開されるのを楽しみにしている。彼も最近では名優として安定した評価を得ているようだが、10年ほど前は明らかなデマも交えて、ずいぶんいろいろと悪い評判が書きちらされて、たたかれていた。それで、あるファンの一人が「私は彼の作品が好きなので、彼自身がどんな人でも気にならない。さすがに殺人とか犯したら別だけど」とファンサイトに書いていた。私はそれに対して書いたか思っただけだったか忘れたが(忘れるなよ)、「私は殺人犯したって別にかまわない」とはっきり考えていた。

もちろん、念のために言っとくとラッセル・クロウは殺人はもちろん、どんな犯罪も犯してはいない。わざとかうっかりか、こういうこと書くと絶対にそういうまちがいをするおっちょこちょいがいるのは、学生に教室で話していても日々痛感するので、そこのところは、はっきりさせておく。あ、ホテルのフロント係に腹を立てて、電話機投げたって話はあったっけ。

とにかく私は、その人の歌や演技や作品に魅了されたら、その人が殺人も含めてどんな犯罪を犯そうが、ましてや酔ってなぐりあいしようが、療養先でサッカーしようが、記者にぶっきらぼうな応対しようが、その歌や演技や作品に対する評価は変わらない。悪くもならないし、よくもならない。私自身に対してその人が暴力をふるったりレイプしたりしたらどうかというと、それはさすがに難しいかもしれないが、ひょっとしたら、変わらないかもしれない。
それほどに、私が芸術家や芸能人に対する、作品以外の関心というのは薄い。ほとんど皆無に近いほどだ。

それは言いかえれば、そういう人たちの実際の姿や日常生活に対する興味が、とことんないということでもある。老若男女を問わず、その人たちの経歴にも家庭生活にも恋愛問題にもまったく興味をそそられないし、そもそもそういう人たちの人柄が立派であったり真面目だったり、かわいらしかったり、よき家庭人だったり立派な市民だったりする必要を、私はまったく感じていない。
犯罪を犯すのは市民社会には迷惑なことであるに決まっているし、暴力や怠惰や淫乱や非常識は家族や友人には困ったことだろうが、それはその次元で償うなり修復するなりしてくれればいいことで、他人の私の知ったことではない。

◇最近つくづくいやなのは、どうやら世の中の人たちは、芸術家や芸能人や科学者や文学者が、皆、立派な家庭人で市民でなければいけなくて、そうでなかったら彼らが生み出したものにも価値がないし、彼らがそういう活動をすることも許されないと思っているらしいことだ。冗談じゃない。そんなこと考えるから、彼らをコメンテーターとしてご意見をうかがう番組もできるのだろうが、本来そういう人たちは常識や良識ということからは最も遠いところにいる人たちだ。
もちろん、そういう人たちの中にも常識を守り立派な市民として生きる人もいる。しかし、どこかずれていて狂っているから、他人には生み出せないものを生み出せる人もいる。ひょっとしたら、政治家や教育者や宗教家でさえもそうかもしれない。

平凡な一般の人間が、彼らを批判し嘲笑し、見限ることはあっていい。だが、その時に、「自分のお手本になってくれなかったから」「立派な人と思っていたのに裏切られた」と思うのは、おかどちがいもいいところだ。その人たちが自分をぼろぼろにしてまで作り上げ、差し出してくれたものを、気に入るか入らないか、おいしいと食べあげるかまずいと残すか、行く先を信じてついて行くのか、信じられなくてついて行かないか、一般人にはそれしかすることはない。
サンチョ・パンサにはサンチョ・パンサの役割がある。自分がサンチョではなくドン・キホーテだと思ったら、自分の馬と鎧を持って、自分の旅に出て、自分の敵をさがすといい。ドン・キホーテに、サンチョ・パンサの手本になってくれと要求する方がまちがっている。

◇とはいえ、このへんは実は限りなく微妙ではある。
私自身も小説を書いたりすることはあるし、商業誌に掲載してもらっていたこともあるのだが、自分がそうやって何かを作り出す人間でい続けるためには、法律を守って健全な市民であるということ以上に、あるいは以前に、私は人間としてきちんとしていなくてはいけないと常に思って来た。それは自分が教師や親や猫の飼い主など、人の上に立つ人間である場合も同様だった。それは、大ざっぱに言ってしまうと、無生物も含めたあらゆるものを愛する力と、どんな強い敵とでも戦うことを恐れない力とを、決して失わないでいることだった。
それをなくしたら、歯車が狂うと感じていた。ものを書く時のことばであれ、何かを買ったり処理したりする時の基準であれ、人とのつき合い方であれ、正確な判断ができなくなるという気がずっとしていた。

◇さてこれが、どうやって、あの映画の感想につながるかというと、それは明日また、ゆっくりと書く(笑)。

Twitter Facebook
カツジ猫