民教連サークル通信よりヒーローたちの個人的事情

ひまなどどこにもないはずなのだが、ひまつぶしに海外ドラマのスパイものや刑事ものをよく見る。一見めちゃくちゃタカ派っぽい「ハワイファイブオー」が、案外リベラルな観点を見せたりして、あれ?とびっくりするなど、いろいろな発見もある。
まあ全作品を制覇したというにはほど遠いから、決めつけてはいけないかもしれないが、さしあたり、どれを見ていても、いくつか気になることはある。
たとえば、少しおとなしくて弱そうな容疑者に自白をせまるとき、刑事が「おまえのようなのは刑務所に行ったら周囲からレイプされるぞ、いいのか」と脅かす場面。たいがい人権問題にやかましい現代だし、そういう刑務所の状況は改善しろよと思うのだが、それはもう変えられないし、変える気もない前提のようにして刑事は話すし、容疑者もびびる。
そうやって脅かされる容疑者は男性に限られる。これが女性ならむしろ視聴者もスポンサーも許さない大問題になると思うのだが、男性の同性からのレイプは別に気にしていないのだろうか。私は日本ではもちろんアメリカでもまだまだ女性差別はあると思っているが、これは明らかに男性差別、それも弱い女性的な男性を差別するという点では、間接的な女性差別としか思えない。

もうひとつは、そんなに深刻なことではないが、レギュラーメンバーの個人的事情がやたらめったらとりあげられ、父親との不仲とか、母の過去とか、娘の恋愛とか、息子の病気とか、その他もう彼らの日常生活が本筋の事件や犯罪以上の割合で登場することだ。たしかに事件や犯罪は毎回単発だから、ずっとシリーズを引っ張って行くのに、そういうサイドストーリーみたいなのは欠かせないのかもしれないが、正直私はこれがうざい。刑事やスパイたちの過去や家庭なんか知りたくないし、事件との関わりだけでおつきあいしたいと思うのだ。
そんなの絶対無理だって?
いやいや、もうトシがばればれになってしまうが、私が若いころ大人気だったテレビシリーズの「刑事コロンボ」「0011ナポレオンソロ」などでは、主人公たちは絶対自分の家も家族も見せなかったし、仲間や上司との話題にもしなかった。
コロンボが容疑者をいらつかせたりするときなどに、のべつまくなしに使う「うちのカミさん」はあまりにも有名だが、あのカミさんはたしか一回、船旅で今にも登場しそうになって結局姿を現さない。実在するかも怪しいものだ。それともどこかで、ちらっと出たりしましたっけ? いずれにしても、そんなもんです。
「ナポレオンソロ」の主人公二人、ソロとイリヤは当時世界の女性からミーハー的にのぼせあがられた大人気コンビだが(イリヤ役の人は相当高齢になった今でも「NCIS」のダッキーとして活躍中)、職場以外の生活は二人ともまったく見せないし、過去を語りもしなかった。これが今なら、ソロの妹だのイリヤの祖母などが毎回わさわさ出て来たんじゃないだろうか。
どちらのドラマも、毎回起こる事件と、それとの関わりの中で見せる彼らのキャラの魅力だけで、立派に勝負していた。今思えば何とさわやか、何とストイック。
当時の他の海外ドラマがどうだったか、日本の刑事ドラマはどうだったか、ついでに言うと主人公が人間じゃない、ウルトラマンやその他のヒーローではどうだったのか、いろいろ私は知らないことも多いのだが、少なくとも、当時の二大人気ドラマが、個人的背景をまったく見せずに本人だけで勝負して成功していたことは確かである。

ウルトラマンで思い出したが、同じ海外ドラマや映画でも、スパイダーマン、アイアンマン、キャプテンアメリカ、スーパーマンなど、その昔のヒーローたちが集団で登場し協力して活躍する、最近の傾向も、私はあまり好きではない。歌手やスターが一人で客をひきつけられなくなったから集団で勝負するのが情けないと批判する人の気持ちに近いかもしれないが、そもそも、そういうヒーローたちは、孤独で愚痴もこぼさず悩みも持たず、明るくせっせと人命救助や悪人征伐の仕事をこなしているのが普通であって、「なぜ自分だけがこんなに苦労するのか」「私だって疲れるんだ」とか言い出したり、仲間同士で対立したり分裂したりしはじめたら、郵便配達や宅急便の業者や警察官や学校教員が仕事の最中に悩みを延々語り出したような、世界の崩壊と重苦しさをどさっと両手に預けられた気分になる。
まあ、最初の刑務所の件は、改善してほしい時代遅れだが、こちらの方は、むしろ時代の反映だろう。私はトランプ大統領を好きじゃないが、彼が「もうアメリカは世界の警察官の役割はしない、そんな余力はない」(超意訳です)と宣言したのは無理もないし、ある意味けっこうなことだと感じる。それは、やたらと愚痴っぽくなり弱音を吐き、個人的事情や家庭背景をあらわにしはじめたヒーローたちの姿とも、どこかでつながっているのかもしれない。

(2018年6月)

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カツジ猫