昔のコラム失敗した時こそが

子どものころ、祖父の本棚にあ ったある随筆に、こういう話がの っていた。下積みの女優がめった にないいい役をもらい、大劇場の 観客の前で熱演していたら、なぜ かパンティがずりおちてしまい、 口笛や笑いで客席は大騒ぎになっ た。もうこれで自分の女優生命は おしまいだと覚悟した彼女は、こ の最後の舞台はしっかりとつとめ ようと決心し、パンティを拾って 舞台の袖に持って行って放り込み、 もとの場所に戻って、さっきせり ふの途切れた箇所から、きっちり と何事もなかったように全精神を こめてせりふを続け、演技を続け た。これで最後と思って演じる迫 力に客席は水を打ったように静ま り、最後は大喝采だったという。 そして、客席で見ていた著名な演 出家の一人も感動して、次の作品 の主役に彼女を抜擢した。これが のちの有名な女優の何とかかんと かなのである・・・という、ちょ っとできすぎた話ではあったけれ ど、妙に印象に残っていて、自分 が大失敗をするたびに、必ずこの 話を思い出す。
ミスやまちがいは、むろんしな い方がいい。しかし、やってしま って皆がかたずをのんでどうする か見ている時こそ、きちんと対応 することで、実力や良心、誠実さ を知ってもらう絶好のチャンスな のに、ためらってあいまいにする のはあまりに惜しい。おまえの職 場の話かと言われそうだが、前回 書いた映画「マスター・アンド・ コマンダー」の宣伝のあり方にも、 そういうことをつくづくと感じる。

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カツジ猫