昔のコラム悪役の生まれ方

大学時代の恩師のお宅に二十年ぶ りにお邪魔したのに、なぜか皆でゴ キブリの話になった。
「あの色がイヤ」「あの形が」と いう人、「つやつやしてきれいじゃ ありませんか」(「かたちだって悪 くない」)などと反論する者、「昔 は害虫ではあっても、それほど忌み 嫌われ唾棄され、おぞけをふるわれ る存在ではなかった」「びゅうっと 飛ぶのもカッコいいと思った、いき なり腕にとまられても平気だった」 「いつからこれほど否定されはじめ たか」ということになり、一人が、 「やはりテレビのCMの影響が大き い。悪役になったのはゴキブリ駆除 の商品が売り出されてからではない か」と言い出した。
たしかに私も子どもの頃、ゴキブ リはそんなに恐くなかったし、今も それほど嫌悪感はない。とはいえ、 もちろん好きではないし、ゴキブリ に知り合いもいなかったから、彼ら 自身は全然変化していないのに、世 間の見る目がどんどん変化していく のを漠然と不思議に思いながらただ 見ていた。そしてふと気がつくと、 もうゴキブリがそのように、特に嫌 われてもいなかった状況を知ってい る世代が既に少なくなっている。
マスコミの影響力の大きさ。その 背景にある、商品を売るための熱意。
こうやって世の中は変わる、こう やって悪役は作られるという実例を 少なくとも一つは確実にリアルタイ ムで見てきたなあという実感がある。 ゴキブリに肩入れするわけではない が、(自分もいつかそうなるかもし れないと思ったり、)最近見た映画 「華氏911」で武器を売ったり石 油を買ったりする企業家たちの映像 も妙に重なって(きたりして)、何 やら私は悩ましい。

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カツジ猫