昔のコラムピンクのブラウス
叔母が亡くなった。八十歳を過ぎ ても赤い靴をはき、洒落た服を着て 明るく医者の仕事をしていた。
叔父も数年前に亡くなっているの で、住む人のいない家の片づけをし ていたら、たくさんの服に混じって、 (胸にも袖にも)フリルだらけの淡 いピンクのブラウスがひとかかえ出 てきて、ちょっと笑えた。
叔母は昔から私を大変かわいがっ た。高価な服をいくつも買ってくれ た。しかし、まだ若くて地味でシン プルな服が好きだった私は、叔母が 私に着せようとするゴージャスな服 が苦手だった。それで一計を案じて、 「白いブラウスがほしい」と言って みた。高級なブラウスは私には手の 出ない値段だし、これなら(いくら 何でも)そう派手なものはあるまい と思ったのがたいそう甘くて、叔母 はめったにねだらない無愛想な姪が そんなことを言ったのに大喜びで、 (これでもかという勢いで、)もの すごく高価なブラウスを何枚も買っ てくれたが、それが皆、宝塚の舞台 にでも立てそうな豪華なフリルつき で、こんなのとても普段には着られ ないと私は作戦の失敗を確認した。
一方叔母は、それまでは興味のな かったブラウスにも思いがけず華や かなものがあると知って、はまって しまい、次々にきれいなピンクのブ ラウスを買っては楽しそうに着てい た。またそれが、よく似合った。
叔母がていねいに保管していた、 いい香りのするやわらかいピンクの ブラウスを両手に抱えると、それが 惜しみなく私に注いでくれた叔母の 愛そのものに思えて、喪失感より限 りなく豊かな気持ちがあふれてくる。