昔のコラム時の流れ方
それにしても、この忙しさはまっ たく何とかならないものか、とさす がの私もいやになりはじめた。毎日 ほとんど分秒きざみで動いている気 がして、板子一枚下は地獄とかいち かばちかとか縁起でもないことばば かりが、なぜか次々頭に浮かぶ。
あちこちの大学で同年輩の方が急 死されているのを見ても驚いたり悲 しんだりする前に、そうだろうなあ と納得したり、これでゆっくりお休 みになれるだろうなと不埒なことを 考えてしまう自分が恐い。
高速道路を高速で飛ばしていると 百キロ越えてもあまり速く走ってい る感じがしないというが、こう目ま ぐるしい毎日だと、かえって何もし ていなくて忙しくないような、奇妙 な錯覚にふっと陥る。
こんなにかさこそ走り回っている のは私だけでもなさそうで、周囲の 皆も何だかいつもかけずり回ってい るようだ。会う人が皆、「もう十二 月ですね」「あっという間の一年で すね」とどこか不安そうに話す。
私は朝目ざめてうつらうつらして いる時、自分が疲れているかどうか の基準にしていることがある。時計 を見て、もうちょっと寝られるかな、 と目を閉じる。あまり疲れていない 朝だと、まだいいかな、と片目をあ けて時計を見た時、思ったより時間 がたっていない。疲れて死にそうな 時は、一瞬目をつぶっただけと思っ て時計を見ると三十分や四十分、下 手すると一時間もあっという間に過 ぎている。
こんなに皆が時の流れを速く感じ るというのは、楽しいからではなく て、死にそうに疲れているからでは ないのかと、そこはかとなく心配だ