昔のコラムいやなものは見たくない?
愛するものを護って戦うと言わ れたらとっさに、「それより私が 誰にも護ってもらわなくても、ど こまでも一人で平気で歩いて行け る、町や社会や国や世界を作って」 と思う。戦う以上、自分の方が殺 されるかもしれない。その後で残 された愛する者がどんな目にあう のかも考えないのか。もしかした ら「愛する者を護って死ぬ」とは、 わがままで、臆病で、自分勝手で、 いいかげんな甘えん坊の「先に死 なせてー」宣言にすぎないのでは と、ひそかにずっと疑っていた。
そうしたら、最近映画の「トロ イ」が面白かったので、題材とな ったホメロスの「イーリアス」 (岩波文庫)を読み直していたら、 何とトロイの町の護り手で最高の 戦士のヘクトールが最愛の奥さん にこう言ってるせりふに出くわし た。「わたしはそなたが敵に曳か れながら泣き叫ぶ声を聞くより前 に、死んで盛り土の下に埋められ たい」
もう、ちがうだろっ!でも、や っぱりそうかっ!三千年昔からこ うだったわけねっ!…と私は激怒 し爆笑した。
あっ、現在公開中の映画「トロ イ」は、その点実に立派です。こ の映画は女性が男性に「私のため に人を殺さないで!」と叫びつづ けてる映画だし、ヘクトールも 「イーリアス」みたいに甘ったれ たことは言わないし考えない、最 高に素晴らしい男性。いろんな意 味で私は感動した。男と女につい て、戦争と平和について真剣に考 えるすべての人に、ぜひこの映画 は見てもらいたい。