福岡教育大学物語26-おまえよばわり

この連載を始めてから、メールその他で、いろんな方から学内の情報をいただくことが多くなった。それをどのように整理してお伝えしたらいいのかは、かえっていろいろ難しい。さまざまな事実を知るたびに、私自身が「そんなことになっているのか」と激しく動揺してしまうこともある。

不要な混乱を招いたり、対立を増幅するようなことは、なるべく書くまいと思っているのだが、さすがにこれはお知らせして、皆さんの学内の状況を判断する材料にしていただいた方がいいと思う。

教職員組合と大学執行部は、教職員の待遇改善など、いろんなことでいわゆる団体交渉を行う。その席での大学執行部の方々の暴言が目にあまり、精神的なダメージも大きいと、執行委員の先生方がしばしば口にされるのは聞いていたが、感情的な対立もあるのだろうし、ある程度はしかたがないのかと漠然と思っていた。

ところが先日市民と教員が情報交換の話し合いをしていたとき、ある教授が何でもないように言った一言に、私は驚愕した。

「理事の方は、私のことなんか、交渉の席では『おまえ』よばわりですからね」

その方はそうおっしゃった。特に告発するという感じですらなく。
私の方が衝撃を受けた。これがどういう状況なのか、はっきり言って私にはちょっと想像できない。

酒の席でもない、公式の、交渉の席だ。理事の方が「おまえ」と呼んだ教授は、著名な研究者ですぐれた教育者だ。両者の間に個人的な交流や交遊はない。
そのような公的な場の他人に対して、いったいどうして、そんな態度がとれるのか、学長や他の理事はもちろん、同席していた他の組合のメンバーも、それをそのままにしておけるのか、もはや私の理解をはるかに超える。

とっさに連想したのは、多分、その理事の方はお嫌いだろうけれど(私も嫌いだが)中国の文化大革命や、カンボジアのポルポト政権と共通する精神と発想だった。知識人や学者への敵意と憎悪。それを侮蔑し陵辱し、公然と辱めることで自らの中の鬱屈した何かを解放する快感。
そんな病的なものさえ感じた。そうでなければ幸せに思う。

最近、プロ野球関係の話が多くて恐縮だが、あまりにも象徴的だし、連想した方も多いだろうから言うと、中日ドラゴンズの応援団は応援歌の歌詞「おまえが打たなきゃ誰が打つ」の「おまえ」が適当でないからと自粛するそうだ。
やり過ぎだと批判する人も多いが、ネットで見ると批判している人も、「応援歌だからいいと思うが、日常では子どもには使ってほしくない」などと言っていて、日常での使用には慎重な方が多かった。それが常識的な現代の感覚だと思う。

この人たちは、いわば最高学府の、それも小中学校の教員を養成する大学を代表する立場の理事のお一人が、公式の話し合いの席で、個人的なつきあいのない大学教授を「おまえ」と呼ぶことを聞いたら、どう感じられるのだろうか。

またこれも元同僚から聞いたのだが、授業中にふまじめな態度をとった学生のツイッターを見て、乱暴な言葉づかいがあったので、事務方も入って指導したということも最近あったらしい。
何とも厳しいことだと驚き、いささかの不安も感じたが、それはまあそれぞれの先生の指導方針もあるだろうし、いろんな状況や事情もあったのだろう。

ただ、その指導をされた先生や事務の方は、この、大学の最高の立場にある理事の方の、公式の席での、このような発言をご存じなのだろうか。
何より当の学生は、このことを知ったら、受けた指導を素直に受けとめられるのだろうか。

そして、一般の方や教育関係者は、こんなことでは教育現場でのいじめや暴言がなくなるはずはないと絶望されるのではないだろうか。
ブラック企業の現場なら(よいとは言わぬが)おまえよばわりは日常だろう。閉ざされた密室の中で、上位の者はしたい放題の発言や行動をくり返して、相手の誇りをふみにじり、人間性を破壊する。
それに似たことが、自分が非常勤として勤務する職場でも行われていたとしたら、私には衝撃である。

実はこれを書く前に、当該の理事の方と学長に会って、せめて事実確認だけでもするべきではないかと、かなり考えた。
仮に事実であったとしても、これが世間に広がったとき、福岡教育大学のイメージをどれだけ傷つけるかを考えると、せめて今後はそのような発言には配慮していただくことを約束していただけるのなら、誰にも話さないままにして終わろうかとも考えた。

だが、名誉教授をはじめとした、さまざまな方々の質問状が未開封で返却されたり「学外者の質問には応じられない」と解答を拒否されたりする事例が続いていることを思うと、また同様の対応になることも考えられ、その場合には大学側の姿勢に、より多くの批判が集まる材料を増やすだけの結果になりかねないと思った。
まだしも私の軽率なフライングということにした方が、被害が少ないかもしれない。

ともあれ、このようなことが日常化しているとしたら、大学と組合をはじめ、いろんなところでの人間関係が、かなり異常な事態にまで悪化しているのかもしれないと恐れる。
相手へのことばづかいや、最低限の礼儀など、どんな小さいところからでも、それを修復し、実りある対話を築きなおしてほしいと願う。

再建や修復は、どんなに醜くても現実を直視し把握することから始めなくてはならない。
事務職員や学生、教職員、学外の市民など、すべての人に、「理事が教授を、おまえよばわりしている」という、この福岡教育大学の実情を知ってもらいたいと願う。
あらゆる手段を使って拡散してほしい、と、あえて願う。
それが、新たな対立や敵意や憎悪を生むのではなく、融和と協調の方向へ向かう力となることを願う。

もとより、大学執行部の方々や他の方からの訂正や説明があるなら、いつでも、このホームページの「お手紙」欄でお受けする。ただし、「公開はしないでほしい」という要請は、状況をより複雑にする可能性があるので認められないのをお許しいただきたい。ネットの場を離れて個人的に話し合いをしたいという申し入れなら、あらためて考慮したい。

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