水の王子・「岬まで」24 2024年01月13日(土) ミーハー精神 ※ 何かもう、そのことを予測していたように、コトシロヌシがうなずいた。 タカヒコネも静かな表情のままだった。 驚いたのはニニギだけで、「どちらにですか?」とせきこんで聞く。 「フヌヅヌとオミヅヌの町だ」… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」23 2024年01月13日(土) ミーハー精神 第九章 旅の果てに 数日ふり続けていた雪は夜の間にやんだ。オオクニヌシの家の回りは小さい畑も森も小道も一面にまっ白く埋もれて何もかもがなだらかに丸く、朝日にきらきら光っていた。よろい戸を開け放していっぱいに開いた窓の、… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」22 2024年01月11日(木) ミーハー精神 ※ 「もういいんだよ、ウガヤ」数人の子どもたちと連れ立ってついて来ていたミヅハがそう言ってウガヤをとめ、ウガヤは「もういいもういいもういい」と小声でくり返しながら羽をたたんで畑の柵の横木にとまった。 「そ… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」21 2024年01月11日(木) ミーハー精神 ※ 灯台の近くのマガツミたちは、うろうろ動き回っていたが、おおかたは動きをとめて座りこんだままだった。スクナビコの薬でとかされたマガツミたちの方は、かなり広い範囲に広がってとろりとひとつに溶け合ったまま、その… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」20 2024年01月11日(木) ミーハー精神 ※ 白い小さな星のように激しい輝きが、いくつも畑の向こうで生まれた。大小さまざまの光が矢のように飛んで来て、押し寄せてきていた影のいくつもが、よろめいてひざをつき、向きを変えた。ウガヤの鳴き声にまじって、ど… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」19 2024年01月10日(水) ミーハー精神 第八章 襲撃 刃と刃ががっきとかみあい、暗い曇り空の下で赤い火花を散らした。ずるずるすべるあぜ道に足をふみしめて身体を引きながらタカヒコネは、荒々しくうなるイナヒの声を聞いた。相手は大した使い手でも強い力の持ち主でもな… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」18 2024年01月06日(土) ミーハー精神 ※ おれは、死んだフハノのことを考えている。 ずっと、ずっと考えている。 おれが覚えていなければ、思い出しつづけなければ、あれのことはもう誰もわからないまま、この世から消える。 … [続きを読む]
水の王子・「岬まで」17 2024年01月05日(金) ミーハー精神 第七章 絵巻物 女は磨き上げられて鏡のような木の床の上に足をやや開いてふみしめ、広間の中央に立っていた。 一見、娘だ。だがよく見ると中年女だ。後ろに流して切りそろえた髪、ひじから先はあらわな、ひきしまった腕。上半身も下… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」16 2024年01月03日(水) ミーハー精神 ※ 「でさー、そーゆーわけでさー」祭りの準備でごった返している村人たちの一角で、つみ重ねた太鼓によっかかって一休みしながら、クマノクスビはいつものくったくのない調子でぼやいた。「あのおっさんのいうことが、どう… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」15 2024年01月03日(水) ミーハー精神 ※ ひずめの音が遠ざかる。 おれの空耳かもしれないが。 遠くで太鼓の音がする。 不思議な花の香りが水の匂いとまじってただよってくる。 おれが閉じ込められている、この建物は、うす紅色の格子がはまっていて、… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」14 2024年01月02日(火) ミーハー精神 ※ どさりと音がして、前方の人影が前のめりに倒れた。ほとんど同時に背後の方で、どたばた争う音がして、「あきらめろ、このバカが」と明るい陽気な声がした。「じたばたすんじゃねえよっつってんだよ」 「クマノクスビ… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」13 2024年01月02日(火) ミーハー精神 第六章 太鼓が鳴って どんどこどん。どんどこどん。 ぴーひゃらひゃら。ぴーひゃらひゃら。 ちんとんしゃん。ちんとんしゃん。 朝から今日もにぎやかに、沼の上には太鼓や笛の音が流れている。 「あの子たち、やっぱりうま… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」12 2023年12月31日(日) ミーハー精神 ※ ある夕べ、私は昔のように弟と花の中に座っていた。何気なく花を手折って私が、この花を最初に見たときのことを覚えているかと聞くと、弟は目を見張って、けげんな表情になり、困ったように首をふった。 その時に、何… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」11 2023年12月31日(日) ミーハー精神 ※ あの人の声を覚えている。 いつからか私の耳は聞こえなくなったが、あの人の深く静かに響く声は私の記憶から消えることはない。 昔、ある人を愛した、とあの人は言った。 まだ少年のときに。誰よりも深く、激し… [続きを読む]
水の王子・「岬まで」10 2023年12月29日(金) ミーハー精神 第五章 悩める海賊 「何をきょろきょろ見てるのさ?」アメノウズメは乾いた海草をつめたふかふかの寝椅子によりかかりながら、向かいの椅子にあぐらをかいたサルタヒコを見た。「ひさしぶりに帰ってきたと思ったら、いやにそわそわ、落… [続きを読む]