水の王子・短編集「渚なら」13 2023年08月18日(金) ミーハー精神 第八話・困った人ね(下) 「それでおれ、何か落ちこんじゃってさ」タカヒコネは吐息をついた。 「何が? 何に?」 「あのミズハに、困った人ね、と言われたんだぞ。あの、村じゅうのやっかい者の、何も考えてないいたずら好きの… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」12 2023年08月18日(金) ミーハー精神 第八話・困った人ね(上) 「おじさんさ」ミズハが聞いた。「人をたくさん殺したの?」 「うん」タカヒコネはうなずいた。 「どのくらいたくさん?」 金色の髪の愛らしいミズハは、この村に来てまだ数ヶ月。元気いっぱいの十歳… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」11 2023年08月12日(土) ミーハー精神 第七話・夏の雲 今日も父は母をつれて、山登りに出かけた。 この住まいがすでに山の上だと言うのに。 弁当の包みと水を入れた竹筒を持って、嬉々として母とともに山を登って行く父の姿はほほえましい。 夕方まで帰らないだろう… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」10 2023年08月12日(土) ミーハー精神 第六話・千客万来 私は砂をしきつめた階段を上った。かつて数えきれないほど上り下りした、青い石をちりばめた、はばの広い階段だ。目の前に大きな茶色の船がある。船腹にあとからつけた白っぽい流木の扉がすぐ前にある。 何ヶ月ぶり… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」9 2023年08月11日(金) ミーハー精神 第五話・飛べない舟(下) オオクニヌシとスセリが、にぎりめしと果物を入れたかごを持ってやって来たとき、イナヒはつまらなそうに砂浜の上にねそべって、重ねた前足の上にあごをのせており、タカヒコネとミズハは夢中で砂の上に木の枝… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」8 2023年08月11日(金) ミーハー精神 第五話・飛べない舟(上) その朝、オオクニヌシの一家が食事をすませて、のんびりしていると、入り口の方で「タカヒコネいますか?」と何だかおずおずした声がした。 「おや、あの声はニニギじゃな」立ちかけたタカヒコネを制して、… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」7 2023年08月09日(水) ミーハー精神 第五話・朝露 海から静かに吹く風が、淡い色の花々をゆらしていた。あちこちに小さい虹が、からかうようにかかっていた。早い朝食の後で小道をそぞろ歩いていたクラド王は、花の茂みの向こうから聞こえてくる、優しい声にふと足をとめた… [続きを読む]
トヨタマヒメ降臨 2023年08月02日(水) ミーハー精神 私の日本神話をネタにしてぶっとんだ小説「水の王子」の読者で、トヨタマヒメのファンの男性が、ドライブしていて、トヨタマヒメの神社を見つけ、はまって時々行かれているようです。私もいつか行きたいなあ。 ただ、私の小説では神話の… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」6 2023年07月25日(火) ミーハー精神 第四話・どうしても知りたくて(3) 「おれは、あんたが本当に立派で頼りになりそうな人だったら、きっと、支配されてしまうのが恐くて、あんたを殺しちまったと思います。草原で、そうやって、たくさんの人を殺したように」タカヒコネ… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」5 2023年07月25日(火) ミーハー精神 第四話・どうしても知りたくて(2) この村が少し前に壊滅に近い状態になった原因は私にある。その後の復興の中で、皆は忘れているようだが。 昔、私と愛し合ったヤガミヒメという女性が、私の子どもだという赤ん坊を… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」4 2023年07月23日(日) ミーハー精神 第四話・どうしても知りたくて(1) タカヒコネという若者は謎が多い。何よりもふしぎなのは、以前は盗賊で草原で山ほど人を殺したはずなのに、まったく何でもないことを、ひどく恐がる。たとえば、めったにないことだが… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」3 2023年07月23日(日) ミーハー精神 第三話・あのころのこと 「あれミズハ?」アワヒメが半信半疑の声を出した。 「そのようですな」タケミカヅチが落ち着いて言う。 ほんのまばたきするほどの直前、二人の前を、きゃーっとすさまじい叫び声を上げながら、女の子らし… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」2 2023年07月15日(土) ミーハー精神 第二話・ミズハ姫 「たまーに帰って来たら、これだもん」コトシロヌシの家の奥で、寝台によりかかりながら、ヒルコがぼやいた。「いったい何なの、そのミズハって子は?」 「とにかく元気がよすぎてさ、それで皆が疲れきっちゃってる… [続きを読む]
水の王子・短編集「渚なら」1 2023年07月14日(金) ミーハー精神 第一話・雨の日 こんな雨もよいのしけた天気の日は、なぜか死んでしまったアメノワカヒコに、むしょうに会いたくてたまらなくなる。おれの気持ちがどれだけめいって落ちこんでいるかのめやすのようなものである。 今日は特に気分が悪… [続きを読む]
「水の王子・丘なのに」あとがき(25)/230 2023年07月01日(土) ミーハー精神 三十代の最後に、友人たちと自費出版していた「鳩時計文庫」のひとつとして、「水の王子」を書きはじめた。 「森から」「草原を」「都には」「海の」「村に」と続いた全五部は、私たちの幼少年時代から学生運動、女性としての生き方な… [続きを読む]