九条の会関係弱者のつもりでいる強者(九条の会2015年11月ちらし)

もうずっと前のことですが都知事選の応援演説で、NHKの経営委員だった百田尚樹氏が他候補を「人間のクズ」と呼んで、国会でも問題になりました。
その時に答弁に立った安倍首相が「そのくらいの悪口は私もいつもあちこちで言われている」と言って、会議場には笑いが起こったそうです。
国の最高権力者が、国民が被害を受けていると聞いて、「私も同じ被害を受けている(だから我慢しろ)」という感覚しか持てないということ、それに対して周囲も異常と思わないらしいことに、私は寒々とした気持ちになりました。
この首相と政権の本質は、その時から終始一貫まったく変わっていません。

世の中には小説「小公女」のセーラのように、どん底の境遇に落ちてもなお、自分より恵まれない人のことを思いやり、苦しむ人を救おうとする、強者や支配者やヒーローの誇りを失わない弱者がいます。
その一方で権力の頂点に登りつめて、大きな力を持ちながら、最低の弱者を守るためにある理屈や法律を平気で自分のために使って、それがどんなに醜くて恥ずかしいことか気づきもしない強者がいます。

沖縄の翁長知事が辺野古の埋め立て承認を取り消したのに対し、沖縄防衛局と国土交通相は、不服審査を行って、この取り消しを無効としました。
しかし、この不服審査は、多くの人が指摘しているように、本来は行政機関から不利益な処分を受けた「私人」を救済するためのものでした。それを政府が使うのは、大金持ちが生活保護を申請しているのと同じ、もしくはそれ以上のピント外れな手続きです。

そうやって弱者の武器を使う一方で、政府は辺野古現地の3地区の区長たちを官邸に呼び、名護市も沖縄県も通さずに地域振興の補助金を交付すると伝えました。宗像市に何かの施設を作るのに、市長も県知事も無視して市内の区長さんを官邸に呼んで交渉するのと同じと言えば、その異様さはおわかりでしょう。
「地方創生どころか地方破壊だ」「親を説得せずにいきなり子どもを抱きこむようなもの」「憲法に続いて地方自治法も無視するのか」と批判されるように、こちらは権力にまかせた強者の暴走です。

この夏、国会で国民の声を無視しつづけた安倍内閣は、そのやり方を改めるどころか、ますます拡大させています。「むなかた九条の会」は、このような政府の、あからさますぎる地方自治法の破壊に対し、地方都市で活動し生活している者として、あらためて強く抗議を表明します。   (2015.11.9.)

むなかた九条の会世話人代表 板坂耀子(福岡教育大学名誉教授)

Twitter Facebook
カツジ猫