九条の会関係読書の秋です。(2014年9月配布のビラ)

暑さも少しやわらいで来ました。雨続きとかで野菜も高く、大変な毎日ですが、たまには気晴らしに面白い本でも読んでみるのはどうでしょう。

高野和明「ジェノサイド」は山田風太郎賞、日本推理作家協会賞を受賞し直木賞の候補にもなった話題の作品です。いきなりアメリカ大統領の朝から始まり、コンゴの奥地で人類の破滅につながる謎の生命体が誕生したという情報があって、その確認のために四人の傭兵が派遣され、一方日本では急死したさえない普通の大学の先生が息子に残した謎のパソコンから、やっぱり平凡な理系大学院生の息子が友人たちの協力を得て難病の治療薬を開発しようとし、それがすべて世界情勢や人類の歴史と結びついて、大変なスケールの冒険小説になって行きます。角川文庫上下2冊で600円と640円。ちょっと高いけど。

え、日本人が書いたの?と思うような規模の大きさですが、最後までとことん面白く、しかも、その底にある、ジェノサイド(大量虐殺)を生むものと、それをくいとめるものへのまなざしは、とても確かです。
登場人物の会話に、「第一次大戦のとき、兵士の8割が敵に出会っても殺すことを回避した。それがいろんな教育によってベトナム戦争では90%が発砲するようになった。しかし人を殺した後遺症で苦しむという問題は残った。それについては、上からの命令に従い周囲に合わせるような人間を作ることと、殺す相手に直接接したりしないこと、また相手を自分より劣等で異質な存在として人間扱いしないようにさせることで、解決できる」という、大変わかりやすい、でも恐い発言があります。

実はインターネットでこの本の感想を見ていると、「とても面白かったが日本の大学院生といっしょに謎をとく韓国人の院生が不愉快」「南京大虐殺について朝鮮人に味方しすぎていて不愉快で、本を捨てた」などという意見もあります。別に日本のしたことや韓国とのことだけを書いている小説でもなく、むしろアフリカの現状など世界全体の話なのに、そこだけ激しく反応する、こういう感想を見ていると、作者が描いた「ジェノサイドを生むもの」は私たちの周囲や私たちの内部にも、今、次第に生まれさせられているのかもしれないと、つくづく思います。

人間の本質は、人を殺すようにはできていない。無理に殺せばその後で一生自分も苦しむ。それを避けて、人を殺して平気で生きていられる人間を作るためには、相手が自分より劣った、決して理解しあえない人間と思いこむしかない。
戦争は誰もいやです。だから安部首相も「戦争にはまきこまれない」とくりかえすしかありません。しかし、その一方で、同じ人間を「殺してもいい」異質な存在と思わせる雰囲気は着々と作られています。それを注意深く見守りましょう。はびこらせないように用心しましょう。(2014.9.9.)

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カツジ猫