九条の会関係新入生の皆さんへ・2013年

福岡教育大学の新入生となられた皆さん、入学おめでとうございます。

先日ちょうど桜が満開の湯布院に行き、そこのロックウェル美術館にふらりと入りました。ノーマン・ロックウェルは「トム・ソーヤの冒険」「ハックルベリー・フィンの冒険」に挿絵を描いたアメリカの画家です。親しみやすく陽気なその絵にはアメリカの前向きな明るさが満ちています。

さまざまのほほえましい絵の中で「懸命な説得」というタイトルの一枚がありました。陪審員たちの議論らしくて、テーブルの端に座った若い女性に十人近い男性がのしかかるようにして何かを話しています。どうやら彼女ひとりが皆と意見がちがい、それを変えようとしないようです。

赤い靴をはき、腕組みをした彼女の様子に悲壮さはありません。でも真剣だし、ひるんでもいません。よってたかって熱心に彼女を説得しようとしている中高年の男性たちも、どこかほほえましく見えました。

彼女はどんな強い信念とゆらがぬ基準を持っていたのでしょう。大勢の年上の男性に囲まれて泣きも怯えもしないで自分の立場を守りとおす力を、いったいどこから得ているのでしょうか。

皆さんの多くが大学に来てとまどうことの一つは、高校までとちがって成績その他で明確につけられていた順位や目標がはっきり見えなくなることです。自分や他人を測るものさしが、なくなったように感じるかもしれません。その一方で今の社会には昔よりずっとせっかちで厳しい、さまざまな評価があふれており、それに振り回されてしまいがちです。

どうか、これからの長い人生を生き、世界と歴史を創って行くためにも、周囲や他人や大きな力、泣き落としや誘惑に左右されない、自分のものさしを作って下さい。そのために、たくさんの本を読み、知識を学び、深く考え、豊かな事実にふれ、いろんな人と話し合って下さい。少数派になり孤立すること、愛する人たちと異なる意見を持つことを恐れたり嫌悪したりしないで下さい。

意見や立場の異なる相手とこそ、真剣に冷静に話し合いましょう。暴力や感情でなく知性を信じて行動するのは、大学に学ぶ人々すべてが社会や人類から与えられている役割なのです。

そして、こういった他者との交流、個人の成長を実現させるためには、何よりもまず、平和な世の中が絶対に必要であることは言うまでもありません。

「むなかた九条の会」は福岡教育大学元学長だった菰口治名誉教授を世話人代表に、憲法九条を守るために活動することを目的として、2005年に結成されました。現在は西崎緑教授と私の二人が世話人代表をしています。平和を守りたいと願うひとはもちろん、さまざまな意見の人たちと話し合って、皆さんたちといっしょに、よりよい未来を築いていきたいと強く願っています。

2013年4月4日
福岡教育大学名誉教授 板坂耀子

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